源氏物語 リンク集
源氏物語(げんじものがたり)は平安時代中期に成立した日本の京都を舞台とした長編物語、小説。文献初出は長保3年(1001年)で、このころには相当な部分までが成立していたと思われる。
古写本は題名の記されていないものも多く、また、記されている場合であっても内容はさまざまである。『源氏物語』の場合は冊子の標題として「源氏物語」ないしそれに相当する物語全体の標題が記されている場合よりも、それぞれの帖名が記されていることが少なくない。こうした経緯から、現在において一般に『源氏物語』と呼ばれているこの物語が書かれた当時の題名が何であったのかは明らかではない。なお、古い時代の写本や注釈書などの文献に記されている名称は大きく以下の系統に分かれる。
* 「源氏の物語」、「光源氏の物語」、「光る源氏の物語」、「光源氏」、「源氏」、「源氏の君」などとする系統。
* 「紫の物語」、「紫のゆかり」、「紫のゆかりの物語」などとする系統。
これらはいずれも源氏(光源氏)または紫の上という主人公の名前をそのまま物語の題名としたものであり、物語の固有の名称であるとはいいがたい。また、執筆時に著者が命名していたならば、このようにさまざまな題名が生まれるとは考えにくいため、これらは作者によるものではない可能性が高いと考えられている[1]。
『紫式部日記』、『更級日記』、『水鏡』などこの物語の成立時期に近い主要な文献に「源氏の物語」とあることなどから、物語の成立当初からこの名前で呼ばれていたと考えられているが、作者の一般的な通称である「紫式部」が『源氏物語』(=『紫の物語』)の作者であることに由来するならば、そのもとになった「紫の物語」や「紫のゆかりの物語」という名称はかなり早い時期から存在したとみられ、「源氏」を表題に掲げた題名よりも古いとする見解もある。なお、「紫の物語」といった呼び方をする場合には現在の源氏物語54帖全体を指しているのではなく、「若紫」を始めとする紫の上が登場する巻々(いわゆる「紫の上物語」)のみを指しているとする説もある。
また『河海抄』などの古伝承には「源氏の物語」と呼ばれる物語が複数存在し、その中で最も優れているのが「光源氏の物語」であるとするものがある。しかし現在、「源氏物語」と呼ばれている物語以外の「源氏の物語」の存在を確認することはできない。そのため、池田亀鑑などはこの伝承を「とりあげるに足りない奇怪な説」に過ぎないとして事実ではないとしている[2][3]が、和辻哲郎は、「現在の源氏物語には読者が現在知られていない光源氏についての何らかの周知の物語が存在することを前提として初めて理解できる部分が存在する」として、「これはいきなり斥くべき説ではなかろうと思う」と述べている[4]。
なお、このほかに、「源語(げんご)」、「紫文(しぶん)」、「紫史(しし)」などという漢語風の名称で呼ばれていることもあるが、これらは漢籍の影響を受けたものであり、それほど古いものはないと考えられている。池田によれば、その使用は江戸時代をさかのぼらないとされる[5][6]。
紫式部(詳細は作者を参照)の著した、通常54帖(詳細は巻数を参照)よりなるとされる[7][8]。写本・版本により多少の違いはあるものの、おおむね100万文字に及ぶ長篇で[9]、800首弱の和歌を含む典型的な王朝物語である。物語としての虚構の秀逸、心理描写の巧みさ、筋立ての巧緻、あるいはその文章の美と美意識の鋭さなどから、しばしば「古典の中の古典」と呼ばれ[10][11]、日本文学史上最高の傑作とされる。
ただし、しばしば喧伝されている「世界最古の長篇小説」という評価は、2009年現在でも、源氏物語千年紀委員会による「源氏物語千年紀事業の基本理念」において源氏物語を「世界最古の長編小説」としているなど[12]一般的な評価であるとはいえるものの、中村真一郎の説の、アプレイウスの『黄金の驢馬』や、ペトロニウスの『サチュリコン』に続く「古代世界最後の(そして最高の)長篇小説」とする主張[13]もあり、学者の間でも論争がある。20世紀に入って、英訳、仏訳などにより欧米社会にも紹介され、『失われた時を求めて』など20世紀文学との類似から高く評価されるようになった。
物語は母系制が色濃い平安朝中期(概ね10世紀頃)を舞台にして、天皇の皇子として生まれ、才能・容姿ともにめぐまれながら臣籍降下して源氏姓となった光源氏の栄華と苦悩の人生、およびその子孫の人生を描く。通説とされる三部構成説に基づくと、各部のメインテーマは次のようになるとされ、長篇恋愛小説として間然とするところのない首尾を整えている。
* 第一部:数多の恋愛遍歴を繰り広げながら人臣最高の栄誉を極める光源氏の前半生
* 第二部:愛情生活の破綻による無常を覚え、やがて出家を志す光源氏の後半生と彼をとりまく子女の恋愛模様
* 第三部:源氏死後の子孫たちの恋と人生
文学史では平安時代に書かれた物語は『源氏物語』以前に書かれたか、以後に書かれたかにより「前期物語」と「後期物語」とに分けられ[14]、あるいはこの源氏物語一作のみを「前期物語」及び「後期物語」と並べて「中期物語」として区分している[15]。後続して作られた王朝物語の大半は『源氏物語』の影響を受けており、後に、「源氏、狭衣」として二大物語と称されるようになった『狭衣物語』などはその人物設定や筋立てに多くの類似点が見受けられる。また同作品は文学に限らず、絵巻(『源氏物語絵巻』など)・香道など、他分野の文化にも影響を与えた。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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